ワイン輸入:ワインが日本に到着してから販売できるようになるまでの道のり(その2)
ついに輸入許可!
このシリーズは2回目ですが・・・
11月1日、ついに輸入が許可されました!
10月7日に貨物船が東京港に到着し、保税倉庫に入ったのが10月15日。
通関手続き開始から14営業日目、だからちょうど2週間で許可されたので、初輸入にしては早い方なのかもしれません。
業者からは、「場合によっては半年かかる場合も・・・」と聞いていたので。
それしても、通関手続きではいろいろなことが聞かれました。
中には「???」というような、常識を疑ってしまうびっくり質問まで。
どんなことが聞かれたのか、そしてその時の対応について、私の今回の経験を皆さんにシェアしたいと思います。
前回の、貨物船が日本にする到着する前後の記事と併せて読んでいただければ、理解が深まるのではないかと思います。
(前回の記事はこちら)
ワインの輸入を考えている方の参考になれば幸いです。
通関で検疫対応が一番大変?
難関は食品申請
通関手続きと聞くと、税関での対応が真っ先に思い浮かぶかと思いますが、実際は税関に書類を持ち込む前に、検疫で検査を受け、食品申請を通過しなければなりません。
これは何かというと、「日本の食品衛生基準に適合したものですよ」というお墨付きをもらうことです。
これがないと、税関のステージに進めないのです。
この時に提出する書類は、
・成分表
・製造工程表
・原産国の指定機関による検査証
の3つですが、その記載内容に関して、検疫の担当官からいろいろ質問がくるのです。
中には「本気で聞いていますか?」と思ってしまうような驚き質問まで。
今回は全て通関業者を通じての対応だったのですが、どんな感じだったかお伝えしますね。
質問1:酵素は何をどんな目的で使用していますか?
製造工程表の中に「enzyme(酵素)」という文字がありました。
これを見つけた検疫担当官から、「どんな酵素を何のために使っているのですか」と質問がありました。
一般的なワインの醸造で使われる酵素はペクチナーゼ。
ネットで調べれば出てきます。
このペクチナーゼを使う目的は様々で、サービステックジャパンという会社のホームページには以下のように記載されています。
ペクチナーゼは、搾汁率の向上、清澄促進、加工時間の短縮だけでなく、香り、色度、ポリフェノールの強化に貢献します。また、副活性に依るチオール、テルペンの増加、口当たり、アロマの安定と向上に貢献します。
出典:サービステックジャパンホームページ
他にも情報源はありますが、だいたいこんな感じです。
この質問が来た時に、ワイナリーにそのまま「何使ってます」と聞くのはNG。
なぜなら、10月のこの時期は、2024年ヴィンテージのワインの仕込みの最盛期。
しかもオーストリアは農業としてワインを造っているので、家族総出が当たり前。
質問しても回答が得られるまで時間がかかるのは間違いありません。
なので、聞きたとしては、
「ワインの醸造では一般的にペクチナーゼが使われると思います。あなたのワインも搾汁率向上や清澄促進のため、この酵素のみを使用しているとの認識ですが、合っていますか?」
という、Yes/Noで回答できるように工夫します。
今回、2つのワイナリーから輸入したので、双方に同じように質問したところ、両方とも”Yes”の回答。
それに追加して、「他の酵素は使っていません」と親切な追加情報もありました。
これを通関業者を通じて検疫担当官に伝えてもらい、この質問への対応はとりあえずOKでした。
質問2:酒石酸を添加していますか
「??????」
ワインのことを多少でも知っていれば、こういう反応になると思います。
私自身、この質問をメールで見た時に自分の目を疑いました。
酒石酸はブドウ由来の酸。
これを添加したかどうかを確認する意図が何なのか?
そこで、通関業者を通じて検疫担当官に確認したところ、
「製造工程表の中に”tartrate stabilization”とあったので確認のため」
とのことですが・・・
Tartrateは「酒石」、stabilizationは「安定」
つまり酒石安定化の工程であり、酒石酸の添加とは関係ないのです。
大丈夫か、ニッポンの検疫(^^;;
もちろん、ワイナリーに「酒石酸を添加していますか?」なんて聞いたら「ニッポンジン、ワインシラナイネ」ってなってしまいますし、私もJSA認定のワインエキスパートなので、そんなこと聞くわけにはいきません。
でも、何か対応する必要があったので、ワイナリーには次のように質問しました。
「酒石安定化には冷却法、電気透析、コンタクト法などがありますが、あなたのワイナリーは冷却法を採用しているとの認識であっていますか?」
最もポピュラーなのは冷却法と推測しての質問でした。
これに対して両ワイナリーの回答は”Yes”。
これを受け、検疫担当官には「ご質問の趣旨はワイン由来の酒石酸の安定化ついてだと思います。両ワイナリーとも冷却法を採用しています。」と伝え、これもクリアーできました。
他にもいろいろありましたが
このほかにも、二酸化硫黄の種類、ワイナリーの名称と検査を受けた法人の名称が違う理由も聞かれました。
二酸化硫黄の種類については、代表的なものを通関業者が教えてくれたので、それで間違いないかをワイナリーに確認。
ワイナリーの名称と法人名の違いは、ワイナリーのホームページのimprintをクリックすれば、登録されている法人情報が閲覧できるので、法人の代表者がワイナリーの代表者と一致していることを検疫担当官に伝え、OKをもらいました。
本当に検疫対応はちょっと大変だったですね。
税関からの問い合わせは関税率を決めるため
食品申請通過後は、いよいよ税関対応です。
でも、ここは正直そんなに苦労しませんでした。
確認されたことは次の2点。
・原材料は全てオーストリア産のものか?
・追加した砂糖は何グラムか?
いずれの質問も、EUとのEPA(経済連携協定)上の「原産品」に当たるかどうかを確認するためのもの。
この協定では次のように定められています。
(実際の条文を簡略化しています。)
生産において使用される生鮮ぶどう果実、ぶどう果汁(濃縮果汁を含む)の全ての材料が締約国において完全に得られるものであること。
生産において使用されるショ糖及びその他の糖類の非原産材料の総重量が、産品の重量の四十パーセントを超えないこと。
日EUのEPAではワインは免税となりますが、そのための確認ですね。
この中で、最初の質問は問題ありません。
なぜなら、輸入したワインは、オーストリアのワイン法に基づく原産地呼称が許されているワインなので。
問題は2つ目の質問です。
これは素直にワイナリーに聞くしかないので、スティルワインとスパークリングワインで、搾汁した果汁1リットルに対してどのくらい補糖したかを聞いてみました。
どちらのワイナリーとも非常に忙しので、回答が得られるまで2日間ほどかかりました。
当然のことながら、重量の40%を超える砂糖は加えられておらず、概ね2%前後、若しくは補糖ゼロでした。
税関検査は現物検査に
そろそろ通関切れるかな〜と思っていた頃、通関業者より
「税関での検査は区分3に指定されました。現物検査です。詳細は追ってご連絡します。」
とのメール。
これを見た時ドキッとしてしまい、「区分3」について調べてみました。
JETROのホームページに詳しく書かれていますが、抜粋すると以下の通り。
輸出入手続きのほとんどはNACCS(輸出入・港湾情報処理システム)により処理されています。NACCSで輸入申告した場合は、以下のように3つの区分で判定がなされます。
JETROホームページ 輸入における税関の書類審査と貨物検査
- 区分1. 簡易審査扱い: 輸入(納税)申告後直ちに輸入許可されます。
- 区分2. 書類審査扱い: 税関に通関書類を提出して審査を受けます。
- 区分3. 検査扱い: 税関員が現物検査を行います。
この区分3になるのは、申告外貨物が紛れていないか、虚偽の原産地が表示されていたり、誤認を生じさせる原産地が表示されていないか、といったことを確認するために行われるようで。
「書類上、何か疑義を持たれるようなことがあったのかな?」
と心配になり通関業者に確認したところ、輸入実績のない業者の場合はよくあるとのこと。
しかも、検査はX線検査と箱を開封して現物を確認するだけなので、おそらくすぐに終わって、その場で輸入許可が出るでしょうと。
いや〜安心しました。
実際、11月1日の午後に検査が行われ、その場で輸出許可が下りました。
次回で最終回?
「無事に輸入が許可されたし、このシリーズは終わりにしようかな」と思ったのですが、
本シリーズのタイトルは「販売できるようになるまで」。
実際に販売開始までをしっかりお伝えしてこそ、このシリーズは完結するのです。
なので、次回は最終回として、ECサイトの構築からネット販売を開始するまでについて、皆さんにお伝えしようと思います。
ヴァインシュトックインポートのオーストリアワインの販売サイトはこちらから。